■ 第5回 「救え!尊い命!」2009.10.5

その時、上層階から叫び声が聞こえてきた。「誰か!助けてくれ!」13階の鈴木さんがこちらを見て叫んでいた。
山川:「鈴木さーん!どうしました」
鈴木:「早く来てくれー!うちの子どもが心臓止まってるみたいなんやぁー」
平山:「すぐに行きます」そこに5階の津田さんもやって来た。
津田:「なにか私にもお手伝いできることはありませんか?」
平山:「ちょうど良いところに来てくれましたね。津田さんは心肺蘇生法できます?」津田:「何とかできます。このマンションにはAED置いていましたよね」そこに管理員の山川さんがAEDを持ってきた。
大石:「志村さん、小橋さん、山川さんは管理事務所に居てください。平山さんと津田さんと3人で行ってきます。何かあれば、すぐに連絡します。さぁ、AEDをもって
早く行きましょう。山川さん、電話がつながれば救急車の手配をお願いします」
停電のため、エレベータが動いていないので、3人は非常階段を使って13階へと急いだ。鈴木さんの家に到着すると、奥さんが子どもの名前を叫びながら泣いている。
「太郎!太郎!」
平山:「お母さん!泣いてても仕方がない。ちょっと下がってください」
平山さんは素早く子どもの状態を確認しだした。
大石:「どうして心肺停止したのですか?」
鈴木:「さっきの地震でタンスの下敷きになってしまって、助け出すのに時間が掛ってしまいました。最初は意識がはっきりしていたのですが、だんだんと呼吸が弱くなって意識がなくなったんです」
大石:「それは何分前ぐらいでしょうか?」
鈴木:「皆さんに声をかける直前です」
大石:「じゃあ、まだ助かる!」
大石さんと鈴木さんが話をしている間に、平山さんと津田さんが心肺蘇生法を開始していた。
平山:「太郎君!太郎君!太郎君!」
「意識なし!気道確保!」
「呼吸の確認!見て・聞いて・感じて」
「呼吸なし!人工呼吸」
「心臓マッサージ!」
「1、2、3、4、・・・・30」
心肺蘇生法がつづく。
AED:「パットを装着してください」
津田:「AED用意できました。平山さんは、そのまま継続してください。パットを装着します」
AED:「解析中です。患者に触れないでください」
太郎君を触ろうとするお母さんに、
平山:「今、太郎君に触れないでください!」
AED:「ショックが必要です」音声メッ
セージが流れ自動的に充電が始まった。充電が完了
AED:「通電ボタンを押してください」
平山:「みんな離れて!」
と注意を促し通電ボタンを押した。太郎君の体が大きく動いた。
母:「太郎!太郎!」
大石:「お母さん、落ち着いて」
平山さんはすぐに心肺蘇生法を開始、心臓マッサージを継続した。しばらくすると再度AEDが解析を始めた。
AED:「解析中です。患者に触れないでください」
「ショックが必要です」
「通電ボタンを押してください」
平山:「みんな離れて!」と注意を促し通電ボタンを押した。
太郎君の体が大きく動いた。その瞬間、太郎君が声を発した
「うーん」
呼吸が再開し、しっかりとした自発呼吸が始まったようだ。
平山:「お母さん、なんとか意識は戻ってきたみたいですが、でも病院へ連れて行かなければね」そこに志村さんが走り込んできた。
志村:「あかん、電話がどこにもまだつながらない。救急車も連絡がつかない!」
平山:「じゃ、鈴木さん車で病院へ連れて行きましょう」
鈴木:「すぐに用意してきます」
津田:「太郎君はこの布担架で下まで下ろしましょう」
平山:「AEDはパットを装着したままで病院までお願いします」
そこに小橋さんがマンションに住んでいる看護師の武本さんを連れてきた。
武本:「私が一緒に病院まで付き添います」
太郎君を非常階段から下ろして車に乗せた。
「病院まで気をつけていってくださいね」と声がかかる。
その場にいるみんなの顔は少し安堵の気持ちでホッとしていた。
その時、管理事務所で流されていたラジオから、つぎのような情報がアナウンスされる。
●デマやうわさに惑わされず、冷静に行動してください。自分勝手な行動はしないでください。勝手な憶測をいうとデマの元になります。
●隣近所と連絡を取り合い、お互いに協力して助け合いましょう。
●揺れは一応おさまっていますが、まだ余震の起きる可能性がありますので、もう地震はおさまったと安易に考えないでください。
その時、F棟の星崎さんが走ってきた。
「エレベータの中に誰か閉じこめられている」・・・次回へつづく

第5回の学習ポイント
突然に心臓が止まるのは、心臓が無秩序に細かく動く「心室細動」によって生じることが多く、この場合にはできるだけ早く心臓に電気ショックを与え、心臓の動きを取り戻すことがとても重要です。
AED(自動体外式除細動器)は、この電気ショックを行うための機器です。
※参考文献「災害紙上訓練・DPG」は神戸新聞総合出版センター発行「守れいのちを・阪神淡路大震災10年後の報告」、ニッポン放送発行「生きるための75の教え」
※グリーンシティ防災会では、防災会登録の応急手当普及員による普通救命講習を定期的に行っています。あなたの大切な人を守るために、必ず受講しましょう!その時になってから気づいても遅いのですよ。