■ 第3回 「助け合い!」2008.8.29

その時、玄関のドアを激しく叩く音がした。ドンドンドン!停電しているのでインターホンがならないのだ。
「大石さん!隣の本田です。」
玄関のドアを開けると隣の本田さんの奥さんが焦った表情で
「主人が倒れてきたタンスの下敷きになって動けないんです!」
大石さんは家族にそのことを伝え本田さんの家に行った。
「こっちなんです。靴のまま入ってください。」
見ると両側から大型のタンスが倒れ、本田さんの主人がタンスの下敷きになっている。
「本田さん大丈夫?」
すると
「ちょっと痛いのですがなんとか大丈夫です、でも全く身動きがとれないんです。」
大石:「ちょっと辛抱していてください。奥さん!隣の平山さん呼んできて!」
すぐに平山さんが駆けつけてくれた。
大石:「ひとりではタンスが全く動かないんです。手伝って!」
その時、
平山:「本田さん、タンス壊すよ!」どうするのかと思えば、タンスの背面部分をカッターナイフで切り始めた。あれよあれよという間にタンスの裏板が解体され板が剥がされていく。
平山:「大石さん!そっち持って」タンスの引出を裏側から引き抜き始めたのだ。ひとつが終わりもう一つも同じように解体した。
「痛たたたぁ」
と本田さんの主人が出てきた。
「助かったわぁ。ありがとう。」
でも、足と背中に打撲と擦り傷がある。
大石:「大丈夫?でもこんな風に下敷きになっている人が他にもいるんじゃないのかなぁ?」
本田:「ところで大石さんや平山さんの家はタンス倒れてこなかったんですか?」
大石:「うちは食卓に全員いたのでなんとか大丈夫でした。」
平山:「私の家は、転倒防止器具を付けていたんです。ちなみに冷蔵庫もね。」
本田:「そりゃすごいなぁ」
大石:「平山さんはこんなこと、どこで覚えたんですか?」
平山:「大石さん達と一緒にマンションの管理組合で上級救命講習を受けたときに救急隊員の方が言ってたじゃないですか。」
大石:「そうでしたっけ?」そこに山本さんのおばあちゃんが息を切らしてやってきた。
山本ば:「おじいちゃんがさっきの地震で倒れて手が痛いって言ってるの!」
平山:「すぐ行きます。大石さん付いてきて。」
山本さんの家に入るとおじいちゃんが腕を抱えて痛がっている。
平山:「おじいちゃん!どのあたりが痛い?」
山本じ:「肘のあたりが痛くて肘を伸ばせないんや。」
平山:「私は肘を支えていますから大石さん!ダンボール箱さがして!」
大石:「平山さん、さっきのカッターナイフかして」
すると大石はダンボール箱を細長く切り、腕に添える副木をつくった。
平山:「大石さん、覚えているやんかぁ」
副木を添えて、
大石:「おばあちゃん、なにか結ぶものない?」
山本ば:「うーん?」
平山:「おばあちゃん、ラップありますか?」
持ってきたラップで大石が腕に添えたダンボールと一緒に巻き始めた。
「ちょっと蒸れるかもしれないけど楽になるからね。」
腕と体の間にタオルを当て、腕が動かないように体にもラップを巻き付けた。
山本じ:「痛いけど、こりゃ我慢できるわ。すまんなぁ」
平山:「また後で来ますからね。とりあえず大石さん一度自宅を確認しましょう。」
大石が自宅に戻るとラジオから次のような情報がアナウンスされる。
●道路状況などから救急車の出動は期待できません。また、病院は重傷者を優先しています。軽いケガやちょっとしたヤケドは、自分たちで手当をしましょう。
●ケガをした場合は、綺麗な水で汚れを落とし、傷口を消毒してガーゼを当て、きつく押さえます。その上から包帯をします。出血がひどい場合は、清潔なガーゼやハンカチ等を直接傷口にあてて押さえ、圧迫します。傷口を心臓より高い位置にすると血が止まりやすくなります。
●ヤケドの場合は、すぐ、冷たいもので冷やしてください。十分に冷やした後、細菌の感染を防ぐために、清潔なガーゼや布でヤケドした部分を覆います。服の上から熱湯を浴びた場合は、すぐに服の上から水をかけるか、水にひたして冷やしてください。
●骨折の場合は、骨折した部分に副木を当て、固定します。骨折かどうか分からないときは、骨折だと思って手当てしてください。
●隣近所と連絡を取り合い、お互いに協力して助け合いましょう。

その時、玄関に平山さんが飛び込んできた。
「大石さん!火事や!」・・・次回へつづく

第3回の学習ポイント
@阪神淡路大震災では、タンスの下敷きになった人がたくさんいました。タンスは重く頑丈なので、取り除いて助け出すのは大変ですが、裏側はたいてい薄い作りになっています。裏側から解体して救出しましょう。(圧死・窒息死が8割以上でした。)
A大きな地震の場合、建物には被害がなくても、家の中ではものが散乱します。倒れやすい家具は、転倒防止器具などを使ってできるだけ固定し、重いものやガラス製品は日頃から高いところには置かないようにしましょう。
B救命講習を受けましょう。各市町村などでは、講習会が開かれています。固定や止血等の応急手当、搬送法、AED(自動体外式除細動器)を使用した心肺蘇生法など受講者には、修了証が交付されています。