加古川グリーンシティ

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2021年8月号
 多くの人は、心のどこかで『ヒーロー』の出現を心待ちにしています。私もそのひとりなのかも知れない。古くから、自分を助けてくれる人の存在を人は創ろうとしています。正義の味方という存在。月光仮面、ウルトラマン、仮面ライダー、アンパンマン、最近では鬼滅の刃、ワンピースといった風に時代で変化しています。大昔でいえば『火消し』ではないでしょうか。東京オリンピック2020の開会式にも伝統文化として紹介されていました。『火消し』は火事が発生すれば現場に集まり様々な消防組織「組」(ドラマでは「め組」が印象的)が活躍、火消の組のトップである「頭取(かしら)」は、江戸の町を火から守るいわばヒーロー的な人気を誇っていたともいわれます。当時、町民から「火消し」がヒーローとして人気があったのには「火消し」という職業が消防以外の役割や、江戸の繁栄に伴う情勢の中で設立された「火消し」の背景があり、各組には長い棒の先に飾りがついた纏(まとい)を火事現場の目印とし、纏は組のシンボルでもあり、まちのインパクトでもあったのです。
 江戸の町は全ての建物が木造で、一度火災が発生すれば瞬く間に様々な方向に延焼が起こり、町が焼き尽くされてしまう時代。現代でいえば「行政の指示」を待つことなく地域のみんなで共有する重要な危機管理の緊急対策活動だったのです。なので「火消し」を維持するコミュニティの存在は自衛手段であり、そのコミュニティは地域にとって『防災の要』として必然だったと考えられます。ところが「火消し」の存在が消防行政となったことで、地域住民がコミュニティを維持するという必要性の意識が薄れ、防災も行政がやってくれるサービスのひとつと考えてしまい、自らが動くことにわずらわしさが大きく感じられるようになってしまったのです。地域コミュニティの崩壊です。それは災害対策基本法ができたことで更に加速することになります。国や地方自治体が『国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有することに鑑み、組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有する』と記載してしまったことにより、住民がやらなくても行政がやりますと、住民(国民)を置き去りにしたスタートラインを描いてしまったことによる弊害が、昨今の大規模災害連発で頑張ってきた行政も「行政は万能ではありません。皆さんの命を行政に委ねないでください」と掲げて住民に命を守る自分の努力を呼びかけ始めたのです。しかしながら、一度大きくゆるめられたものは直ぐには戻すことはできません。そこで様々な防災教育が始められました。
 当初の防災教育は、怖い恐ろしいイヤな災害が襲ってくるぞ。だから防災活動をやりましょうという、今考えれば、防災教育で一番やっていけない『脅しの防災教育』が始められたのです。「備えなければダメだ。大きな地震が来るぞ。津波が来るぞ」という手法で、リスクコミュニケーションの中でも、恐怖喚起コミュニケーションといわれ、やってはいけないもののひとつです。恐怖心を与えられて作り出された意識は簡単に薄れなくなり、更には地域のことが嫌いになり、生まれ育った町を出ていくことになってしまいます。
 次に出てきたのが『知識の防災教育』というもので「知識を与えれば人は合理的な行動をするようになる」というものですが根本的に間違いだったのです。人は災害に関わる問題について知識があっても、合理的な行動をとれないのです。『知っているけれども、理解していない』ということが起こってしまうのです。東京大学の片田教授が、次のように仰っています。
 “人間は自分が死ぬことやリスクに関する情報をまっとうに理解できません。例えば、交通事故で年間5千人が亡くなっていても、自分が事故に遭うとは考えず、宝くじが1等5千本だといったら、当たるように思います。このように、悪いことを軽く見るのに加えて、自分の死を合理的に考えず、常に生きていることを前提に、ものを考えます。誰にも訪れる死を直視しないから、今この瞬間を幸せに暮らせるのです”と!
 では、どのような防災教育をすればよいか?
 それは『姿勢の防災教育』だと片田先生は仰います。
 “自分の命を守ることに主体性を持つことができるようにすることです。そして、その前段で重要なのは、敵を知るよりも己を知ることです。皆、不安なので、「どんな津波が来るのか」と知りたがりますが、答えは非常に簡単で「分からない」です。相手は自然なので、ハザードマップ通りに津波が来るはずはありません。実際、今回の津波でも、様々な想定がありましたが、全く役に立たず、巨大津波に襲われました。ですから、必要なのは「相手は自然なので、どんなことでもありうると考え、決してあなどらず、自然に対する畏敬の念を持って、津波・地震が来た時には、逃げることにベストを尽くす」ことです。”これが「姿勢の防災教育」というものです。
 自分のできることをやる!これだけのこと。自分のやれることを決めておくということです。・・・つづく
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